【内緒のしるし】
小さな小さな頃。
お父さんと弟とファーストフード店に行った。
流行っていたポケットモンスターのカードが欲しいから
連れていってくれと弟と共に父に頼んだのだ
持ち帰りで父は注文をする。
「このハンバーガーとポテトをひとつずつ下さい。」
「ありがとうございます!」
ワクワク。カード!カード!
て、あれ?お姉さんはカードをくれない。
父が尋ねた。
「今ゲームのカードがもらえると聞いたのですが」
お姉さんは一瞬困った顔をしてすまなげに言った。
「申し訳ございません。ポケットモンスターのカードは
セットを頼んだ方への特典なのです…」
そんなぁ…
「仕方ないな…諦めようか。」
父が私と弟を諭す。
私も弟もだだをこねない。
家にお金がないことを分かっているからだ。
こども心にセットにしてくれと言えなかった…。
「進、諦めよう。ハンバーガーとポテトが食べられるんだから。」
「うん…お姉ちゃん。」
母が男を作りこども二人と借金を残して蒸発。
父が昼も夜も働いているお金の大切さを私も弟も分かっていた。
「重ね重ね申し訳ございません…ポテトを揚げるのに少々お掛けになってお待ち頂けますか?」
私達は店内の脇の椅子に座り商品を待った。
「お待たせしました!」
お姉さんが出てくる。
「ありがとう」
立ち去ろうとした時だった。
トントンとお姉さんに肩を叩かれた。
「はい。待たせちゃったから特別ね。」
手渡されたのはポケットモンスターのカード二枚…
「あ…」
お姉さんはニコリと笑って口に人差し指を当てた。
内緒のしるし。
「ありがとう!!」
すごく嬉しかった…。
その時のお姉さんに憧れて…
私は大学に入りファーストフード店でアルバイトを始めたのだ。
実は…私は男の子が苦手。怖い。
一度高校時代に…
見知らぬ男に犯された事があるのだ……。
それでも人は好きだ。接客業への夢は捨てきれずファーストフード店で働き始めたのだ。
大学の授業料を貯める目的もあったがやはり楽しかった。
ある時。
小さな女の子を連れた家族連れが店にやってきた。
「ハッピーセット!ハッピーセット!」
女の子ははしゃぐ。
プリキュアのオマケが欲しいようだった。
「はぁいどうぞ」
私は笑ってオマケの袋を女の子に渡す。
「ワァイ!ありがとう!」
女の子はワクワクして袋を開けた。
「あれ…?これかぁ…」
落胆している。
聞いてみた。
「どれが欲しかったの?」
「これ…」
金髪の女の子のフィギュアが欲しかったらしい。
あの時のお姉さんを思い出す。
私も…私もあの時のお姉さんのようにこの子の心に残りたい!
「すみません、休憩下さい!」
私は叫び裏口に回ってオマケをひとつひとつ破いていった。
金髪の女の子!金髪の女の子…!
10数個開けた時だった…
あった!見つけた!!!
私は客席に走った。
女の子を見つける。
トントンと肩を叩いた。
あの時のお姉さんの様に…
「あったよ!この子が欲しかったんだよね!!」
「あ…」
女の子は戸惑いながらそれを手に受け取って満面の笑顔を見せた。
「ありがとう!お姉さんありがとう!!ワァイ!」
やった…っ。
「すみませんわざわざ。ありがとうございます。ありがとうございます。」
女の子の両親に頭を下げられる。
「いえ…喜んで頂けて良かったです!」
破いたオマケは全て買い取った。
「お前お人好し過ぎだろ」
彼は笑っていた。
「いいの。私もこどもの頃に大切なものをもらったから…」
大学四回生。
私はアルバイトの中でもかなり上の立場に立った。
下の子を見守りながら指示を出す。
ある日うちの店にOCという幹部クラスの人が偵察に来ることになった。
「真壁。無様な姿は見せられない。しっかり店を回してくれ。」
「はい!店長。」
偵察当日…
現れたのはいかつい男性…かと思いきやまさかの華奢な女性だった。
この仕事は朝早くから夜遅くまでのシフト制…現場を乗り越えて幹部になっているのだ。
厳しく店を見て回るその河上さんと言う女性。
最後に私と店長に話をされた。
「この仕事は基本マニュアル重視です。
しかし…私は時にそこに人情が
入って構わないと思っているのですよ。
それを下のアルバイトの子達に伝えて下さい。
あれは私がまだ若く入社したての店員だった頃。
三人の家族連れがお店にやってきました。
三人というのに頼んだのはハンバーガーとポテトだけ。
身なりもお世辞にも裕福そうには見えなかった。
私は思いました。それでもこの店に来てくれたのだ。
こどもたちは当時流行っていたポケットモンスターの
カードが欲しかったようでした。
私は…!規則を破りカードをそのこどもたちに
そっと渡しました。後でカードの数が合わず
本当の事を話し叱られました…。
しかし!こどもたちは夢を持ってこの店に来ます!
その気持ちに!時に規則を外れた行為で
答えてあげることも大切なのではと思うのですよ……」
「ま…真壁!どうした!?」
私は泣いていた。
こんな形であの時のお姉さんに再会できるなんて……
「あ…あの時はあり…」
はっと気付いた。
あの時人差し指を口に当てた河上さん。
「ん?」
「ご!ごめんなさい!なんでもありません!私も同感です!!」
彼には全て話した。
「へ~え。話せば良かったのに~。
私があの時のこどもです。
あなたに憧れてここまできましたって。
その人喜んだんじゃねぇか?」
私は首をふった。
「いいの…。あの時の河上さんの気持ちを
私が忘れなければいいの」
家に帰ってこの奇跡を父と弟に話した。
「え!凄い!俺も覚えてるよ!」
弟がはしゃぐ。
「河上さん…だったかな」
え。
「嬉しかったからね。名札を見たんだよ、今でも覚えてる。」
河上さんは…寿退社することになった。
父に話すと
「百合、進。あの時のカードはあるか?」
二人とも机の引き出しに大切に閉まっていた…。
河上さんのお祝いアンドお別れパーティー
店長と私も招待された。
お開きになりかけたその時に…
父と弟がやってきた。
河上さんは首をかしげる。
私と弟は河上さんにすっとカードを差し出した…
「え……これ…」
父が続ける
「あの時のあなたの心配りに私達家族の気持ち
は癒されました。ありがとうございました。
あなたなら必ず幸せな家庭を築けます!」
「…ッ!こ…こんな事が……
嘘みたい……こんな…」
河上さんは泣き崩れた…。
訳の解らない周りの人達に
私はふっと笑って人差し指を口に当てた。
「…ですよね?お姉さん!」
「……ありがとう!こんな形で…本当にありがとう!」
河上さんは私を抱き締めていつまでも泣いた……
「な~んだ結局しゃべっちゃったんだな!」
「うん…お父さんがね…きちんと伝えたい
って言うから…でも良かったよ。」
「だろ?俺も言ったじゃん」
彼は笑った。
今日は初めて授かった娘を河上さんにお披露目に行く。
あれ以来プライベートでも親しくしているのだ。
「希ちゃんね!良かったわね!こどもが授かったのね!」
「はい。この歳ですし最後のこどもです…。大切に育てます…。兄弟を作ってやりたかっ…」
「こっち来なよ!遊ぼ!」
希の手を引っ張ったのは河上さんの長男だった。
「うちのバカ息子でよければお兄ちゃんになるわよ!」
「…はい!!」
河上さん…あなたにもらった愛は
私の心に確実に大きな足跡を残しました。
私達家族に小さく大きな愛をありがとう。
————————————-
1つのドラマのような再会ですね!
マニュアルがすべて正解ではない。
お客様がどうすれば喜んでくれるか。
それを一番に考えることができる人は
素敵ですね。
どうかこの優しさの連鎖を止めないで
くださいね。
小さな小さな頃。
お父さんと弟とファーストフード店に行った。
流行っていたポケットモンスターのカードが欲しいから
連れていってくれと弟と共に父に頼んだのだ
持ち帰りで父は注文をする。
「このハンバーガーとポテトをひとつずつ下さい。」
「ありがとうございます!」
ワクワク。カード!カード!
て、あれ?お姉さんはカードをくれない。
父が尋ねた。
「今ゲームのカードがもらえると聞いたのですが」
お姉さんは一瞬困った顔をしてすまなげに言った。
「申し訳ございません。ポケットモンスターのカードは
セットを頼んだ方への特典なのです…」
そんなぁ…
「仕方ないな…諦めようか。」
父が私と弟を諭す。
私も弟もだだをこねない。
家にお金がないことを分かっているからだ。
こども心にセットにしてくれと言えなかった…。
「進、諦めよう。ハンバーガーとポテトが食べられるんだから。」
「うん…お姉ちゃん。」
母が男を作りこども二人と借金を残して蒸発。
父が昼も夜も働いているお金の大切さを私も弟も分かっていた。
「重ね重ね申し訳ございません…ポテトを揚げるのに少々お掛けになってお待ち頂けますか?」
私達は店内の脇の椅子に座り商品を待った。
「お待たせしました!」
お姉さんが出てくる。
「ありがとう」
立ち去ろうとした時だった。
トントンとお姉さんに肩を叩かれた。
「はい。待たせちゃったから特別ね。」
手渡されたのはポケットモンスターのカード二枚…
「あ…」
お姉さんはニコリと笑って口に人差し指を当てた。
内緒のしるし。
「ありがとう!!」
すごく嬉しかった…。
その時のお姉さんに憧れて…
私は大学に入りファーストフード店でアルバイトを始めたのだ。
実は…私は男の子が苦手。怖い。
一度高校時代に…
見知らぬ男に犯された事があるのだ……。
それでも人は好きだ。接客業への夢は捨てきれずファーストフード店で働き始めたのだ。
大学の授業料を貯める目的もあったがやはり楽しかった。
ある時。
小さな女の子を連れた家族連れが店にやってきた。
「ハッピーセット!ハッピーセット!」
女の子ははしゃぐ。
プリキュアのオマケが欲しいようだった。
「はぁいどうぞ」
私は笑ってオマケの袋を女の子に渡す。
「ワァイ!ありがとう!」
女の子はワクワクして袋を開けた。
「あれ…?これかぁ…」
落胆している。
聞いてみた。
「どれが欲しかったの?」
「これ…」
金髪の女の子のフィギュアが欲しかったらしい。
あの時のお姉さんを思い出す。
私も…私もあの時のお姉さんのようにこの子の心に残りたい!
「すみません、休憩下さい!」
私は叫び裏口に回ってオマケをひとつひとつ破いていった。
金髪の女の子!金髪の女の子…!
10数個開けた時だった…
あった!見つけた!!!
私は客席に走った。
女の子を見つける。
トントンと肩を叩いた。
あの時のお姉さんの様に…
「あったよ!この子が欲しかったんだよね!!」
「あ…」
女の子は戸惑いながらそれを手に受け取って満面の笑顔を見せた。
「ありがとう!お姉さんありがとう!!ワァイ!」
やった…っ。
「すみませんわざわざ。ありがとうございます。ありがとうございます。」
女の子の両親に頭を下げられる。
「いえ…喜んで頂けて良かったです!」
破いたオマケは全て買い取った。
「お前お人好し過ぎだろ」
彼は笑っていた。
「いいの。私もこどもの頃に大切なものをもらったから…」
大学四回生。
私はアルバイトの中でもかなり上の立場に立った。
下の子を見守りながら指示を出す。
ある日うちの店にOCという幹部クラスの人が偵察に来ることになった。
「真壁。無様な姿は見せられない。しっかり店を回してくれ。」
「はい!店長。」
偵察当日…
現れたのはいかつい男性…かと思いきやまさかの華奢な女性だった。
この仕事は朝早くから夜遅くまでのシフト制…現場を乗り越えて幹部になっているのだ。
厳しく店を見て回るその河上さんと言う女性。
最後に私と店長に話をされた。
「この仕事は基本マニュアル重視です。
しかし…私は時にそこに人情が
入って構わないと思っているのですよ。
それを下のアルバイトの子達に伝えて下さい。
あれは私がまだ若く入社したての店員だった頃。
三人の家族連れがお店にやってきました。
三人というのに頼んだのはハンバーガーとポテトだけ。
身なりもお世辞にも裕福そうには見えなかった。
私は思いました。それでもこの店に来てくれたのだ。
こどもたちは当時流行っていたポケットモンスターの
カードが欲しかったようでした。
私は…!規則を破りカードをそのこどもたちに
そっと渡しました。後でカードの数が合わず
本当の事を話し叱られました…。
しかし!こどもたちは夢を持ってこの店に来ます!
その気持ちに!時に規則を外れた行為で
答えてあげることも大切なのではと思うのですよ……」
「ま…真壁!どうした!?」
私は泣いていた。
こんな形であの時のお姉さんに再会できるなんて……
「あ…あの時はあり…」
はっと気付いた。
あの時人差し指を口に当てた河上さん。
「ん?」
「ご!ごめんなさい!なんでもありません!私も同感です!!」
彼には全て話した。
「へ~え。話せば良かったのに~。
私があの時のこどもです。
あなたに憧れてここまできましたって。
その人喜んだんじゃねぇか?」
私は首をふった。
「いいの…。あの時の河上さんの気持ちを
私が忘れなければいいの」
家に帰ってこの奇跡を父と弟に話した。
「え!凄い!俺も覚えてるよ!」
弟がはしゃぐ。
「河上さん…だったかな」
え。
「嬉しかったからね。名札を見たんだよ、今でも覚えてる。」
河上さんは…寿退社することになった。
父に話すと
「百合、進。あの時のカードはあるか?」
二人とも机の引き出しに大切に閉まっていた…。
河上さんのお祝いアンドお別れパーティー
店長と私も招待された。
お開きになりかけたその時に…
父と弟がやってきた。
河上さんは首をかしげる。
私と弟は河上さんにすっとカードを差し出した…
「え……これ…」
父が続ける
「あの時のあなたの心配りに私達家族の気持ち
は癒されました。ありがとうございました。
あなたなら必ず幸せな家庭を築けます!」
「…ッ!こ…こんな事が……
嘘みたい……こんな…」
河上さんは泣き崩れた…。
訳の解らない周りの人達に
私はふっと笑って人差し指を口に当てた。
「…ですよね?お姉さん!」
「……ありがとう!こんな形で…本当にありがとう!」
河上さんは私を抱き締めていつまでも泣いた……
「な~んだ結局しゃべっちゃったんだな!」
「うん…お父さんがね…きちんと伝えたい
って言うから…でも良かったよ。」
「だろ?俺も言ったじゃん」
彼は笑った。
今日は初めて授かった娘を河上さんにお披露目に行く。
あれ以来プライベートでも親しくしているのだ。
「希ちゃんね!良かったわね!こどもが授かったのね!」
「はい。この歳ですし最後のこどもです…。大切に育てます…。兄弟を作ってやりたかっ…」
「こっち来なよ!遊ぼ!」
希の手を引っ張ったのは河上さんの長男だった。
「うちのバカ息子でよければお兄ちゃんになるわよ!」
「…はい!!」
河上さん…あなたにもらった愛は
私の心に確実に大きな足跡を残しました。
私達家族に小さく大きな愛をありがとう。
————————————-
1つのドラマのような再会ですね!
マニュアルがすべて正解ではない。
お客様がどうすれば喜んでくれるか。
それを一番に考えることができる人は
素敵ですね。
どうかこの優しさの連鎖を止めないで
くださいね。